第3章 ずぶ濡れ女
「ごめんなさい‥ハンカチ、ありがとうって言いたくて」
それだけで、タクシーに乗り込んで来たのかと思うだけでため息が出た
「あと‥タクシー代出します」
「それは大丈夫です」
「なんでですか?運転手さん‥へお願いします」
女はここからそう離れていない自分の目的地を告げた。
また、帽子にメガネとマスク‥メガネから見える目は綺麗な瞳でマスクに顔が隠されているがサイズ感があっていない事から小顔なのは間違い無かった。が、それ以上顔を眺めても迷惑だろうと窓の方へと顔を向けた
先程の、会話以外一切言葉を発することはなく無言のまま車は進み女が言った場所へと車は停止した。
「あの‥これ、連絡先です。ハンカチ返したいので連絡してきてください」
そう言われて、二つ折りの紙を渡してくる。その腕が細くオレが力を入れたら直ぐに折れそうだと感じた‥今までの経緯からこの女とは関わらない方がいい‥が、受け取らずに何か騒がれても怖いと思い一応受けとる
「ハンカチ、捨ててもらって良いので」
「そんな‥わかりました。ご迷惑かけてすみませんでした。」
「とんでもない」
「運転手さん、これでお願いします‥彼の目的地に着いてお釣り出たらこの人に渡して下さい」
そう言って女はお辞儀をして足早に家なのか高いビルの中に入っていった。
建物の高さと外観、立地‥全てに余裕がある生活が伺えた
タクシーの運転手からお金を先に受け取れないからと女が乗った分を引いたお釣りが帰ってきた金額を確認し手のひらで握り締めた
「なんなんだ、あの女は…」
「お客さん、い、今の女の人知り合いですか?」
車のミラー越しに聞かれる
「いや、今日…と言うか、さっき、初めて会いました」
「そ、そうなんですね!はー!驚きましたね!」
「そうですね…すみません、・・・までお願いします」
と返す。運転手は何故か鼻歌でも歌うのではないかと思う位、嬉しそうな顔をしていた。
なぜ、こんなにも彼が嬉しそうにしているのかオレには全く分からなかった。