第5章 カクテルの名前
「こっちも、返すもがある」
机にジャラッと音を立てながら小さな袋に入った物が置かれる
音から察するにお金だ。きっと、あの日の車代だろう
「ちゃんと、車代取ってくれました?」
「下宿までは貰った」
「下宿の後があったんですか!?」
「防 大まで帰るからな、今日も下宿から防 大‥だから長く居られない」
「忙しいんですね‥」
坂木さんを見ると確かに腕の筋肉が凄くて、私の2倍はありそうな太さをしていた。その事を伝えると…そこから、普段、どんなトレーニングをしているのか、校友会という部活で剣道をしている事、アイドルでもトレーニングするのかとかお互いに知らない知識を埋めるように質疑応答が続いた。
坂木さんがチラッと時計を確認して。そろそろ解散かなと思うと
「やっと、帽子にメガネ、マスクの理由を理解した。大変だな」
「今日もバッチリです!…本当は何にも身につけないで自由に散歩とかしたいです」
さっと、お忍びスタイルの支度をすると、坂木さんは少し笑顔を見せてくれた。
そして、坂木さんが財布を出そうとする手を掴み止めると先ほど返してもらった袋を見せる
「これで、払います!」
「なら、今回は甘える‥悪いな」
「今、今回って言いましたね!私、ちゃんと聞いてましたから」
そう、ふざけて言うと坂木さんはまた笑ってくれた。
彼は、私がアイドルと分かったからもう誘う事はしないだろう。けど、私はこの縁を切りたくなかった。もしかしたら、坂木さんとは友達になれるかも知れない。