第5章 カクテルの名前
「あの、この間はありがとうございました!」
深々とお辞儀をして再度、先日の事のお礼を言う。坂木さんは涼しい顔をしてタバコに火をつけようとして手を止め机にオイルライターとタバコ箱を置く
「風邪ひきませんでした?‥すみません。癖で聞く前に吸う所でした」
「いえ、吸って構いませんよ?」
そう話しをしたタイミングでマスターが入ってくる。また嬉しそうに私の物と同じ赤色をした液体が入ったロックグラスとコースターと置く。その嬉しそうな顔に私は青ざめた。坂木さんは自分のものとは思わなかったようで「オレは、いつもの」と伝えていたマスターがそれを待っていたように
「坂木!オレの奢りで飲めよ!“Sea breeze”、知っての通り、安栖ちゃんはまだ未成年だから、同じのでノンアルコールでだしてるからな!名前知ってる?」
坂木さんは少し考え、こちらを見て深みを持つようにニヤリと笑う。その姿から察するにマスターの遊び心が分かったらしい。分からないで欲しかった。
そして、表情がまた硬くなり私を見つめて
「安栖さんって言うんですね‥未成年とは知らずに‥タバコ吸おうとしてすみません」
マスターが目を見開き、少し声が大きくなる。こんなにマスターが驚く姿を私は初めて見たかもしれない。
「坂木!安栖ちゃん知らないのか!?」
「水かけられてた女って事しか分からないな」
「うわー‥やっぱり住んでる世界が違うな‥あ、お客さんだ」
そう言ってマスターは足早にカウンターへ繋がる扉の中に消えて行った。
個室で有る事とマスターの言葉から何かを察したのか、坂木さんは気まずそうに言葉を発した