第4章 3話
わたし、そのときほんとうに、冨岡さんに感謝したくなった。優しそうなんですもの、お顔が綺麗で、いつも冷静で、お食事をする所作も丁寧じゃない。好きでいることを、お父さまもきっと許してくださると思った。
考え事のために私が黙り込んでいると、冨岡さんは不思議そうな視線を私に向けた。
「あ、いえ、少し考え事をしていて。あの、最近の
鮭大根のお味、いかがですか……?」
冨岡さんの口角が少しだけ上がったかのように見えた。
「あぁ、美味い。少し味付けを変えただろう、変えてからの方が好きだ」といつもより饒舌に話し出す。
「本当ですか、良かったです。薄味がお好きなようだったから」
「……俺がか?」
水色の瞳は一瞬丸くなると、糸のように細められた。外見の割には、たまに幼い仕草をなさる方だと思った。
「え、えぇ」とついたじろいでしまう。しばらく、冨岡さんは何か含みのある目で私を見つめた。なにかおっしゃられるかと思ったが、彼はなかなか口を開かなかった。
私もなんと返せばいいかわからなくなって何も言わないでいると、厨房からお父さまが私を呼びつけて、その場を後にしなければならなくなった。そのとき、冨岡さんがなにか引き止めてくれることを望んだけれど、彼は何も言わなかった。用事が終わって、また厨房から出た頃には、冨岡さんはもう帰られていた。