第16章 最終話
私は義勇さんの手のひらに自分の手のひらを重ね合わせる。義勇さんは腕に力をこめ、私を立たせる。移動する視界。義勇さんの手のひらから伝わる熱。
私と義勇さんは、手を繋いで歩きだす。お姉さん、義勇さんを私に任せてください。あなたが義勇さんを守ってくれたから、義勇さんが私を守ってくれたから、だから今度は私が、義勇さんを守るから。想いを繋いでいくから。
桜の横を通り過ぎるとき、義勇さんがふと足を止めた。「義勇さん?」様子を伺うと、彼は「言いたいことがあるんだ……」と尻すぼみになりながら言った。
「そばにいてほしい……」
「ええ、いますよ。ずっといます」
「俺の元で、永遠に」
「もちろん。ずっと、ずっと」
散った桜の花びらが、視界いっぱいに広がる。甘い春の匂いに包まれて心地よい。「かぞくに」と頬に花弁をつけながら、義勇さんが言う。
「家族になってほしい」
義勇さんが温かな手で私の手を撫でる。この手がだいすき。義勇さんのことがだいすき。だいすき、が抱えきれないほど溢れてきて困ってしまう。ねぇ、と声をあげる。両手からこぼれ落ちそうになる愛しさを、あなたにも持っていてほしい。
「指きりしましょう。ね」
私たちは小指をからませて上下に振りながら、指切りげんまん、と唱える。
嘘ついたら、針千本。いろいろなことが思い浮かんでくる。初めて義勇さんに会った時のこと。彼からもらったハンカチ。煉獄さんのこと。義勇さんとの、とりとめのない日常のこと。
指、切った。
それは約束だった。落ち着いた低い声が私の頭の中に響いて、頭の奥からとろけていくようだった。このわらべうたは宝物のようなものだ。宝物は一緒に持っていたい。大好きで大切な、あなたと。