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わらべ歌【冨岡義勇】

第15章 15話


「髪、伸びましたね。なにか伸ばしている理由でも?」
「特にはない」
「そうですか。触っていて気持ちいいから、私は長いの好きです」

「そうか」と言ったきり、義勇さんは黙ってしまわれた。気に障ったかと思い後ろから顔を覗き込む。義勇さんは心地良さそうに目をつぶり、静止している。

本当に子供みたい、と私は口の中で呟いて、「かわいらしいわ」と口に出した。髪をまとめ終え、「終わりましたよ」と声をかけると彼は目を開け、荷物の中から新しい長着と帯を取り出した。

「着替えますか? じゃあ私、向こうに行ってますね」
義勇さんは落ち着いた声で「いや」と言って、私の手首を取り、「着替えるから、手伝ってくれ」

私は笑顔で頷いて、義勇さんの服の帯に手をかけた。固く結ばれた帯を、緩めて解く。彼を縛るわだかまりやしがらみを解き、肩にのしかかるものを取り除くように。

帯を縛るために、体を密着させ厚みのある腰に手を回す。次第に義勇さんの体の緊張がなくなっていくのを感じていた。
帯を結んでいると、彼は私の肩に手を添えた。顔を上げ、揺れる瞳を見つめる。

「どうかしました?」
「……強くなければいけないと思っていた」

花が落ちるように、言葉が零れるような言い方で彼は言う。私は黙って、彼の次の言葉を待った。

「力をつけ、理不尽な目に合わないようにしなければいけない。降りかかる火の粉は自分で払えるようにしなければいけない」

彼はそのように生きてきたのだ、と思った。布一枚隔てた体にあるたくさんの傷は、自分と他人を守ってきた証なのだ。

「けれど、お前は」そう続けて、義勇さんは私を見つめる視線に熱を込める。視線が注がれたところが焼けそうに熱い。義勇さんは肩に添えていた手を滑らせ、私の手首を握る。

「こんなにも細く折れそうな手で、自分の運命を掴んできた……」

義勇さんは感嘆するように言った。その声には確かに愛情がこもっていた。

「俺が怪我をして、お前が俺の屋敷に来た時俺は……、」

墨を一滴水面に落とし攪拌するような、愛情の隠し方。けれどもその墨は何よりも濃い。桜の髪飾りがちゃりちゃりと鳴る。彼は伝わりにくいだけで、私の事をしっかりと愛してくれている。

「義勇さん、ぎゆうさん。いいんです、頑張ってあなたがおっしゃらなくても、わかってます」
「いいや、言わせてくれ」
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