• テキストサイズ

わらべ歌【冨岡義勇】

第15章 15話


「なんでしょう?」
「明日は早く出るから、そろそろ寝ないか」
「……まだ眠れる気がしなくて、明かりは消してもいいですから、義勇さん先に寝ていてください」

照れてしまって、彼の隣で一晩眠れる気がしない。後でこっそり宿主から部屋を借りようと、先に義勇さん寝てもらうように促した。

眠る準備をした彼は、普段はひとつに束ねている髪を解いていて、見てはいけないものを見ているような気分になる。広い宿に二人しかいなく、静かな空間だというのもそんな気分を助長させた。

彼の方を見れず、外に目を向けながら話していた。そんな様子を訝しがってか義勇さんは立ち上がり、こちらに近づいた。「大丈夫。起きられますし、お気になさらないで」焦りながら言うも、彼は止まらない。部屋の明かりを消して寝る準備を始める。

「明日は山の中に入るから、体だけでも休めておけ」

暗闇の中で低い声が近づいてくる。義勇さんは私の手首を掴んで立たせる。眠気からか、義勇さんの手は温かい。私の動揺を気にもとめず、半ば引きずるようにすると、私の体を布団に横たえさせた。

ちょっと、と非難めいた声を出す。義勇さんは私の体に毛布をかけ、片手を私の体に乗せる。「ま、まだ寝ませんってば……」と、赤くなった頬を毛布で隠した。

温かい手が確かな重さをもって、私の腹部を規則的に叩く。子供のように扱われているのが恥ずかしく、身の置き所がなくなって足を動かした。寝具が擦れるさらりとした音、義勇さんが毛布を優しく叩く音。それらを聞いていると気が抜けて、抵抗するのもおかしな気がしてくるから、大人しく目を閉じる。

義勇さんは満足そうに「おやすみ」と言って、布団の中に手を入れると、私の手を強く握った。私も「おやすみなさい」と返し、その手を握り返した。

*

朝起きるのは義勇さんの方が早かった。布団に座ったまま、義勇さんが髪をまとめるのをぼんやりと眺めていると、義勇さんは可笑しそうに笑いながら、私の頭を撫で「起きろ」と言った。

「義勇さん、寝癖がついています」

布団を畳みながら指摘した。義勇さんは髪を解き結び直そうとする。私は彼の背後に立ち、「やりますから」と言って長い黒髪を櫛ですいた。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp