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わらべ歌【冨岡義勇】

第14章 14話


義勇さんの怪我が治癒し、療養生活が終わった。彼は約束通り私を彼の故郷へと案内してくれることとなった。二人で山の麓の街を歩いているとき、ふとどこからか声をかけられた。

「ちょっと、そこのおふたりさん」

私と義勇さんは足を止め、声の主を見る。露店の店主がこちらに向かって手招きをしていた。洋風の髪飾りや宝石のついた指輪、化粧品などがずらりと並べられている。装飾品のきらめきについ目を奪われていると、義勇さんは露店へと近づき、商品を眺め始めた。

私もぼんやりと義勇さんの隣に立った。自分の生まれ育った土地に帰ってきて、義勇さんは懐かしむような表情をすることが多くなった。現在も、露店の商品に穏やかな眼差しを向けている。

私は見知らぬ街並みよりも、そこで過ごした義勇さんの追憶に興味が湧いて、彼の表情ばかりずっと伺っていた。義勇さんは商品から視線を外すと私の方を見て、私の髪に手を伸ばした。義勇さんからもらった、リボンの髪飾りを彼は外す。露店から新しい髪飾りをとったかと思うと、まるで宝物にでも触れるかのように私の髪にそれをつけた。

驚きから言葉を発せないでいると、店主が「似合うねぇ。奥さんに買ってあげなよ」と冷やかした。

義勇さんは頬を緩め、「いくらだ?」と懐から財布を取り出した。「申し訳ないです。自分で出しますよ」と言いかけるも、店主が見せて来た鏡の中の自分を見て、言葉が出なくなった。

赤を極限まで薄めたみたいな可憐な色をした、桜の花の髪飾り。私の好きな花。義勇さん、私の好きな花を覚えていてくれた。怪我の療養中、いつかの昼に話した取り留めのない話を、彼は忘れずにいてくれている。

「少し驚きました」

義勇さんは「なにがだ?」と私に聞く。彼を見上げると、頭の上の髪飾りがちゃりと小さく音を立てる。

「あなたは私に興味はないと思っていたから」
「そんなことはない」

義勇さんは即座に返す。「俺は、ちゃんと」 え? と首を傾げ、彼の目を見る。義勇さんの唇が音もなく動く。俺は、ちゃんと。その後に続く言葉をはなんだろう。
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