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わらべ歌【冨岡義勇】

第13章 12話


彼の影の中に入り、日光が遮られる。世界にふたりだけの気分になれる空間。目を閉じると規則的な心音が聞こえてくる。背中を撫でる優しくて愛しい手のひら。甘く蜜のような幸せが苦しいほど湧き上がってきて、おぼれる。

*

ここが夢の中だということは、すぐに理解出来た。出会ったことのない人物が二人、私の前に立っている。私と外見がよく似ている女性と、口元に傷のある少年。恐らく女性は義勇さんの姉で、少年は彼の親友だった人だろうと推測する。

彼女たちは穏やかな笑みを浮かべたかと思うと、私の前から去ろうとする。背中を向ける。私はそれを追って、駆ける。距離は縮まらず追いつけない。

待ってください、言いたいことがあるの。

声を張って叫ぶ。夢の中のなにもない、からっぽな空間に反響する私の声が待って、待ってと木霊する。私の声が消えかかった瞬間、晴れ晴れとした声が耳に届く。

義勇をよろしくね。義勇を頼んだぞ。

待ってください、優しい人たち。ありがとう、ほんとうにありがとう。あなた達のおかげで義勇さんに会えたんです。彼の命を救ってくれて、彼がこの世界にまだ生きる理由になってくれて、ありがとう。

二人の背中が消え夢が終わる。目を開けると、潤んだ瞳と目が合った。義勇さんは骨が軋みそうなほど私を強く抱き締めて、涙声で「ありがとう」と言った。私は何も聞かずに彼を抱きしめ返し、腕の中でひっそりと泣いた。
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