第13章 12話
義勇さんの部屋で向かい合って座り、二人で食事をとりながら、私は彼の所作をこっそりと観察していた。お箸を正しく持つ長い指は動作が丁寧で、見ていて好ましい。私の視線に気がついてか、ふと義勇さんが私の方を見た。
「兄弟は」
私の視線については触れず、彼は唐突に言った。「きょうだい?」と反射的に繰り返す。「いるのか?」多少面食らいつつも、私は答えた。
「いません……けど、話したことありませんでしたっけ?」
義勇さんは首を横に振る。
「いいや、知っていた」
そして、不思議なほど満足そうに彼は微笑んだ。この人こんな笑い方できたのね。家での義勇さんは、今までからは想像も付かないような様子をする。私はそれが嬉しくてたまらない。緩みそうになる頬を必死に抑えていると、義勇さんがまた口を開いた。
「好きな食べ物は?」
「牛鍋が……」
「今度、食べにいこう」
義勇さんが微笑みながら言い、大根をお箸で切る。お皿の上に視線を向けたまま続けた。
「休日は何をしている? 趣味は? 小さな頃はどんな性格だった?」
「え、えぇと。休日はお店のお手伝いで……趣味は、最近はお裁縫が楽しくて……」
質問の連続に困惑しつつ答える。
「あの、珍しいですね。義勇さんがこんなこと聞いてくるの」
義勇さんがお椀に口をつけてお味噌汁を飲む。私の作ったものを食べる義勇さんを見ていると、妙に気分が高揚してくるのを感じる。義勇さんはお椀から口を離すと、私の目を見つめた。
「お前の事を教えて欲しい」
遠くでウグイスの鳴く微かな声が、義勇さんの優しい声と共に私の耳をくすぐった。私を見る彼の瞳は、水のように透き通っていて美しい。「私も……」自分の震える声が恥ずかしく、頬に血が集まって熱くなるのを自覚する。
「私もあなたのこと、もっと、知りたい」
それが合図だった。それから私と義勇さんはお互いのことを明かしあった。口下手な義勇さんに合わせて、少しずつ、煮詰めていくように、丁寧に。
家やお店のこと、お酒とお料理のこと、好きな花のこと、最近あった嬉しかったこと、悲しかったこと。処方された薬が苦いということ、幼い頃にした恥ずかしい失敗のこと、寝る前に必ずすること、一昨日に読んだ本のはなし。
正中で胸をゆっくりと切り開いて、心臓を取り出すかのように、慎重に。そんな臆病な子供のようなやり取りが、もどかしくも愛おしい。