第12章 11話
「私、あなたの視界に入りたかったのかも。ここにいるんですって」
主張したかったのかも、と続けた。義勇さんの瞳はゆっくりと見開かれ、障子から差し込む朝日を受けて、輝いた。その輝きはただ人間の眼球が光を反射させただけでなく、私にはもっと尊いもののように思えた。
義勇さんは首だけ軽く起こすと、傷が痛むのか緩慢な動作で私の顔に手を伸ばした。私は避けずにそれを受け入れ、私の頬を撫でようとする義勇さんの掌に、頬ずりをした。
「考え事をしていて……頭を打ったんだ」
義勇さんは罪でも告白するかのような様子で口を開く。今までに見たことがないような様子だった。
「初めてだった」
唐突にそう言い、私の頬を撫でる手を強めた。義勇さんの手は固かったけれど、撫で方が優しいから全く痛みは感じなかった。そんなことよりも湿った手が熱くて、義勇さんの熱が私にもうつってしまいそうだと思った。
「意識がない間、ずっと夢を見ていた気がする。夢の中では
いつも姉さんと錆兎が迎えに来てくれるんだ……」
義勇さんの声は小さく、震えていて聞き取りづらかった。私はとっさに聞き返したけれど、彼は目線をこちらに向けるだけで、もう一度言ってはくれなかった。
「初めてだ、二人以外の人間が出てきたのは。俺の中で、お前は……」
掠れた低い声が耳に届くのと同時に、胸壁が細かく振動するのが伝わってくる。その振動は私を芯から揺さぶる。全身、頭の先からつま先まで私の体には一種の快感に近いものが走り去った。多幸感、陶酔、恍惚。どれも当てはまりそうにない。自分の体の震えに気が付かないふりをして、私は義勇さんの言葉に聞き入った。
「初めてなんだ。聞いてくれ。ここにきて、傍に……」
切迫したような声でそう言ったきり、義勇さんは黙ってしまった。 切れ長の瞳は閉じられ、薄い唇からは穏やかな吐息が漏れている。