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わらべ歌【冨岡義勇】

第12章 11話


部屋の中には布団が一枚敷かれてあって、その中に義勇さんはいた。部屋の中心へ足を進めると、背後で襖の閉まる気配がした。布団の上に散らばった長髪に向かって、ぎゆうさん、と小さく声をかけた。

義勇さん、私の義勇さん。あなたの事が大好きな私が来ました。思いは声に出せないままふつふつと湧いてきて、血の巡った頬が爛れそうに熱い。

床に伏せたままの彼を起こしたくなくて足音を立てずに近づくと、義勇さんは寝返りをうち、こちらに顔を向けた。頭に巻かれた包帯が痛ましげに傷の深さを伝えてくる。私は枕元に立つと、膝をつき義勇さんの顔を覗き込んだ。

発熱しているのか、頬は紅潮し額に汗が滲んでいる。傍においてあった濡れた手ぬぐいを手に取り、義勇さんの額に当てた。そのままこめかみ、首筋へと移動させ、寝巻きの前をゆるめ胸元の汗を丹念に拭った。

肌に張り付く布を見ながら、二年前の義勇さんとの出会いを思い出していた。あの時もこうだった。彼は怪我をしていて、私はその傷に手ぬぐいを当てた。

体をまじまじと観察すると、成人前と比べ少し背丈が伸びて筋肉がついたように見える。顔立ちも精悍なものになった。

外見だけではない。いつの間にか、私たちはこんな距離になっていた。物陰に隠れながら眺めるだけだったものが、家に来て、汗を拭く関係になっている。

言葉にできないような感情に胸が苦しくなって、義勇さんの胸に顔を寄せた。さらに耳を寄せて、唾を飲み込み息を詰める。何も聞こえないように、この部屋が義勇さんの吐く息だけでいっぱいになるように。義勇さんの胸はゆっくりと上下し、私の耳に肌が触れる度に、心臓の拍動が微かに感じられた。
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