第12章 11話
なんだか夢を見ていたみたいで、眠りが浅いからか頭痛がする。頭が重い。おでこに手を当てると、焼けるように熱くて驚いた。自分の手のひらとおでこが触れる感触は同じ人の掌だというのに、義勇さんが触れる時とはだいぶ違う。義勇さんの触れ方は優しくて、心地よくて、宝物を扱うようで……。私の大好きで、大切な……。
たまらなくなって部屋を飛び出した。昇ったばかりの朝日が寝巻きから飛び出た手足を焼く。
家を出ると、驚いたお父さまが私を呼びとめる声が背中に張り付いた。義勇さんの立場、私の未来、煉獄さんのこと、幼い頃の記憶。小さな定食屋に詰まったそれらの付着物を私は引き剥がして、身軽になる。
いつの間にか頭痛は治まっていた。私は炭治郎くんからもらった地図を何とか頭の中で描きながら、義勇さんの家の前にまでたどり着いた。屋敷を塀がぐるりと取り囲んでいて、中はよく見えない。立派な作りの門は閉ざされている。私は時間帯も気にせずに、門を強く叩いた。
早朝にすみません、と形ばかりの謝罪を繰り返す。しばらく続けていると、門がぎぃと鳴って開かれる気配がした。中途半端に開いた入口から、歳をとった女性が出てくる。彼女は顔に刻まれた皺を更に深めて、「こちらです」と私が来るのをわかっていたかのように微笑んだ。
直接あなたの話を聞いていたわけではないけれど、冨岡さんの雰囲気が変わられたことには気がついていたんです、と長年と義勇さんの女中をしている彼女は語った。
あなたは冨岡さんと知り合われて何年? 二年間、そう、わなら私の方が少し長いのね。初めの頃は、それはもう酷かったのよ。いつ死んでもいい、とでも言いたげな顔をなされて、いつも傷だらけで、命を落とさないのが不思議なくらいだった。
冨岡さんが変わったのは、ちょうど彼が十九くらいのころかしら?少しだけ、自分のことを大切にするようになられたのね。私もう、驚いちゃって……。
埃ひとつなく整えられた廊下を案内しながら、彼女は涙ぐんだ。義勇さんへの心配が私の胸中を占めているからか、どうにも言葉が滑る。耳に入るけれど、引っかからずに抜けていった。
女中は閉じられた襖の前に来ると私に向き直り、深く頭を下げた。「彼のこと、よろしくお願い致します」と言う彼女に、私は頷いた。
所々に傷と皺のある手が襖を静かに開く。同時につんとくる薬品の匂いが鼻腔に届いてきた。