第11章 10話
煉獄さんの死、義勇さんが私を突き放した日から、およそ一月が経過しようとしていたが、その間私達は一度も顔を合わせなかった。
義勇さんがお店に来ることもなかったし、会おうにも私は彼がどこに住んでいるのかすら知らなかった。
早朝、私は店の前の塵を掃いていた。いつもだったら店内の掃除のみだけで終わらせ、わざわざ店の外にまで出ることはしなかった。しかし、手持ち無沙汰な時間を作ってしまうと、煉獄さんのこととあの手のひらの痛みを思い出してしまいそうになるから、なるべく仕事をしているようにした。
次第に朝日が昇り始め、透明な光が周囲に漂った。光が充満し、朝の気配がありありと感じられるようになったとき、来客は現れた。
来客は、私よりいくつか年下に見える少年だった。彼は私を見るとすぐに、地面にぶつかってしまいそうな勢いで、頭を下げた。義勇さんや煉獄さんと似た服を着ていたから、彼らの関係者だということを察する。
「すみません、すみませんでした……!」と悲痛そうな声で謝る彼の頭をなんとか上げさせた。
おでこに赤い痣のある少年だった。名前を尋ねると、弱々しく、「竈門炭治郎です」と彼は名乗った。
竈門くんを部屋に上げると、彼は改めて、私に深々と頭を下げた。
「煉獄さんから、聞いています。亡くなる時、あなたに謝るように言われたんです」
「あなたは煉獄さんを、看取ったのですね」
はい……、と重くるしく竈門くんは頷いた。まだ少年らしさの抜けきらないあとげない顔立ちからは、抱えきれないはどの後悔と罪悪感が感じ取れた。
煉獄さんの話をするにあたって、あなたが私に対して申し訳なく思う必要は、ひとつも無いんですからね、と告げた。それでも竈門くんの表情が晴れる様子はなかった。
「煉獄さんは最期まであなたのことを気にかけていらっしゃいました。ここから先は、煉獄さんの言葉をそのまま伝えさていただくのですが、」
相槌を打つと、竈門くんは小さく息を吸った。