第10章 9話
「あなたは……、泣かないんですね」
義勇さんの瞳が少しだけ見開かれて、揺れた。その瞳の奥まで、水の中を覗くかのように見透かしてみたかった。義勇さんは言葉を選ぶように黙っていたが、やがて口を開いた。
「煉獄は、下の隊員を守って死んだ。誰も死なせずに最後まで守り抜いた、立派な最期だった。ここで俺が泣いたら、死んだ煉獄が浮かばれないだろう」
義勇さんは自分に言い聞かせるように、固い声で言った。それが嫌に悲しかった。
私の頬を伝った涙が義勇さんの腕に落ちた。肌と雫の溢れた音は微かだけれど、はっきりと聞こえ、腕を滑り降ちると羽織に染み込んだ。悲しくなってまたあふれでそうになった涙を、義勇さんは指で受け止めてくれた。
私は義勇さんの腕の中で、上目遣いに彼の瞳を見つめた。
「ほんとうは……?」
「隊員が死ぬのに、慣れてしまった」
そう言ったときの義勇さんは、まるで子供が叱られるのを怖がっているかのようにすら見えた。庇護欲に近いものが胸の奥から湧き上がってくるが、これはそんなに綺麗なものではない。膿のようにどろどろとしている。
この口下手な男が、愛おしい。私は義勇さんのことについて、出会ったばかりのほとんど知らないうちから、義勇さんの唯一無二の代弁者だ。そんな気がした。
「それは、慣れたくは、なかったですね」
義勇さんの頬を優しく撫で、ごつごつとした頬骨の感触を味わいながら、そっと言った。表情にこそ出ないものの、傷ついているはずの義勇さんは小さく頷いた。
私がまた目に涙を貯めると、義勇さんはあまり泣くな、とおっしゃった。もう少し他の言葉がありそうだが、不器用な言い方が彼らしかった。
「あなたが泣けないから、代わりに泣くんです」
あなたが……、と私は続けようとして、言葉にならなかった。煉獄さん、煉獄さん、と叫び出したくなった。このひとを、どうして義勇さんを置いていってしまったんですか。もう誰も、置いていかないでください。傍で支えてあげてください。義勇さんは決して強いひとなんかじゃないんです。繊細で不器用で、優しい人なんですよ。
義勇さんが私を抱きしめる。彼の腕の震えから、彼の感情が痛いほど流れ混んできた。義勇さんの瞳を覗き込んだ。彼がたじろいだのが微かな空気の振動でわかった。