第10章 9話
「大丈夫って、納得できません。私、あなた達のこと何も知らなかった」
「今日は寝ると良い、明日になったら全て説明する」
「待てません、とても。教えてください、今、全て教えてください……」
私の声は掠れていて、悲痛な響きをもっていた。義勇さんも辛そうな様子で返す。
思えば、何も知らなかったのだ。煉獄さんは炎柱という肩書きをもっていることを本人から聞いてはいたが、それは何をする人なのか、ついぞ教えて貰えなかった。今思うと、煉獄さんも義勇さんも、あえてその話題から私を遠ざけていたのではないかと思う。
心配させないように、怖がらせないように。私はいつも守られてばかりだった。
「いつかの夜、義勇さんは散歩に出た私を怒りましたよね。あの時あなたは、鬼が出るから、と言った。それと関係しているんでしょう。ねぇ、義勇さん」
問い詰める私を義勇さんは落ち着け、と窘めた。羽織を脱ぐと私の肩にかけ、「暖かい所に行こう」とおっしゃった。
義勇さんは火鉢に火をおこすと、私の正面に座って私の目を見据えた。全てを聞く覚悟を問われている。自然と背筋が伸びた。私は準備が出来た合図として、深く頷いた。
「疲れたら中断するから、すぐ言ってくれ」と義勇さんが私を気遣う。
そうして私は、一晩かけて義勇さんから、身の回りで起きたことを全て聞いた。
鬼の存在のこと。義勇さん、煉獄さん、宇髄さんは政府非公認の、鬼を殺す部隊に入っているということ。そこで上の立場にいたということ。煉獄さんの死に様。煉獄さんの仇はまだ取れていないということ。
話し終え、義勇さんは乱暴に私をかき抱いた。義勇さんの硬い胸板が頬にぶつかって痛かった。その硬さを味わいながら私が泣くと、義勇さんは私を抱きしめる力を強めた。
昼間の千寿郎くんに私がしたようなことを、義勇さんは私にする。あなたも辛いはずなのに、ごめんなさい。胸の内で何度も謝った。義勇さんが私を慰めるなら、誰が義勇さんを慰めるのだろう。
腕の中で身動ぎをすると、義勇さんは腕の力を緩めた。抱きしめられながら、顔を近づけ見つめ合う。私は緩慢な動作で、けれど丁寧に義勇さんの頬に手を伸ばした。私のかさついた指が頬に触れる。