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わらべ歌【冨岡義勇】

第10章 9話


嵐のような性格をしていた煉獄さんの葬儀は、その性格に反し少人数で粛然と行われた。煙は嫌味なほど透き通った青空に真っ直ぐとのぼっていって、あの人がこれから天国にいくのが嫌というほどわかった。


喪主である槇寿郎さんの隣に並んだ千寿郎くんは、魂が抜けてしまったかのように呆然としていた。駆け寄って強く強く抱きしめると、小さな体はわっと声を上げて泣き出した。胸元が濡れる。濡れた胸元の冷たさが、これから乗り越えていかなければいけないものの厳しさを表しているようだった。

葬儀の後はもうなにをする気にもならず、家に帰ると、布団を被って声を殺して泣いた。涙が溢れる度に、煉獄さんとの思い出が湧き出てくるようだった。誠実な人だった、死んでいい人ではなかった。

煉獄さんの笑顔、驚いた時の満月のように丸まった瞳。私を撫でるときの、全てを包み込んでくれそうな兄のような優しげな表情。

様々なことが頭に浮かんで、浮かんでは思い返して、また別のことを考えて、と繰り返しているうちに、疲れからか私の意識は微睡みに包まれていた。

次に、意識を戻すことになったきっかけは、気遣わしげに私の名前を呼ぶ、お父さまの声だった。いつの間にか涙が乾いていたから、随分長い間寝ていたことがわかった。

「大丈夫か……?」
「はい……、少し、辛いけれど……」
「言いづらいのだが」とお父さまは一つ拍を置いたあと、「お前に来客だ」と言った。

喪服から着替えて自室から出ると、見慣れた羽織が視界の端に映った。それを見ると急に安堵に近い感情が湧き出てきて、涙がまた零れそうになった。

「義勇さん……!」

彼の近くは安全基地であるような気がして、駆け寄った。自分の想像以上に憔悴しきっていたのか、彼の目の前で躓きかける。義勇さんは私の肩を自然な所作で支えた。

「義勇さん、煉獄さんが……」

私が彼の羽織を掴んだまま震えた声を出すと、彼は言葉を詰まらせたような表情をした。義勇さんはなるべく私を安心させようとしたのか、「大丈夫だ」と言い聞かせるように言った。
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