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わらべ歌【冨岡義勇】

第9章 8話


縁側に座ると、雨上がりの湿った空気が鼻腔に飛び込んできた。どこかで虫が鳴いているのが小さく聞こえる。「雨の匂いだな」と煉獄さんは呟いた。

「今日は災難だったな」

私の隣に腰を下ろすと、煉獄さんは労るように言った。

「雷まで鳴るとは少し驚きましたね。でも煉獄さんが泊めてくださったから」
「流石にあの中に放り出すなんてことはしない。それに君が来ると、家が少し賑やかになるから千寿郎も喜ぶ」

私はもともとよく喋る人でもないから、賑やかになる、という言い方は煉獄さんの気遣いだとわかった。 千寿郎くんの人の良い笑顔を思い起こす。

「千寿郎くんは可愛いですね」
「あぁ、自慢の弟だ」と、またお兄さんの顔。

「ところで」と煉獄さんが切り出した。これが本題なのだろうと、直感した。

これからどんな大切な話が始まろうと、理性を持って答えられる自信があった。私は成人したばかりだけれど、誕生日のときの義勇さんのような状態で酔ったりはせず、節度のある飲み方をした。

微醺を帯びた体から生み出される熱は、微かだった。煉獄さんの頬はほんのりと赤く染まっていた。

「最近、冨岡とはどうなんだ?」

煉獄さんは庭の蛍を目で追いながら、尋ねた。蛍は三匹ほどいた。それらは三匹とも、つかず離れずの距離を保ったまま飛んでいる。光の軌跡が八の字を描いていた。

私と煉獄さんは出会ってからの一年間で、お互いに多くのことを話していた。

私は、義勇さんが好きだということ、彼はきっと私のことは愛していなくて、私の背後に、誰か別の人を見ているかもしれないということ。口付けのこと以外は、全て包み隠さずに打ち明けていた。

煉獄さんからは、特に家庭のことについて聞いていた。お母さんのこと、昔は槇寿郎さんも立派な人だったこと。炎柱の後継者のこと、継子のこと。

そのほかにも、好きな食べ物のこと、好きな季節、趣味、特技。きっと私は義勇さんについてより、煉獄さんについてのことの方が詳しかった。それ程までにお互いに気を許していた。

「やっぱり、変わらないです」

私の家に縁側はなかったから、今日初めて素足を夜風に晒すと気持ちがいいことに気がついた。新たな発見に驚きつつも、私は答えた。月明かりに照らされたふくらはぎが白く光りながら、退屈そうに動いていた。
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