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わらべ歌【冨岡義勇】

第9章 8話


分厚い雲が空を塞ぐ、休日のことだった。私は煉獄さんによばれ、煉獄さんの家に行った。家主の槇寿郎さんは、私が食卓に参加することを疎ましがったが、お父さまに持たされたお酒を渡すと渋々と受け入れてくれた。

弟の千寿郎くんと一緒に料理を作っていると、千寿郎くんは「お姉さんができたみたい」とほがらかに笑った。お兄さんそっくりの笑顔だと思った。

お夕食を食べ終わると丁度、分厚い雲から大粒の雨が降ってきた。次第に雨足は強まり、雷まで鳴り始める。なぜだか胸がざわついた。

この雨で帰るのは危険だから、泊まっていくといい。部屋もたくさん余っている。

煉獄さんは善意から、そう提案してくれた。槇寿郎さんの目を気にして、私は一度は断った。それと雷の日は、なぜだか一人で、または義勇さんと一緒にいたい気がした。義勇さんが私の望み通りに動いてくれることは、本当に稀だけれど。

家の近くに雷が落ちると、流石に私も怖くなって、煉獄さんの好意に甘えることにした。お願いします、と頭を下げる私を煉獄さんは快く受け入れてくれた。

夜になって、ようやく雷は鳴り止んだ。私は自分にあてがわれた一室で、横になっていた。

部屋は広かった。家具は備え付けてあるけれども生活感がなく、一度違和感を覚えてしまうと、落ち着けなかった。煉獄さんの家は広いのに人が少ないから、物音一つしない。

静かな広い部屋で、柔らかな布団の海に沈み込みながら密かに義勇さんのことを考えた。いま、なにをなさっているんだろう。今日のお夕食は何を召し上がって、今日一日で何を感じたのだろう。

義勇さんの唇の熱を思い出して、胸のあたりが痒くなった。私は自分の唇を何度も撫でた。疼きをどうにかしようと悶々としていると、部屋の外から名前を呼ばれたことに気がついた。煉獄さんだ。

「まだ、起きているか?」

昼間、あんなに大きな声ではきはきと話す煉獄さんだけれど、夜は別人のように声を落としていた。

「起きています」

応えると、煉獄さんは入ってもいいか? と尋ねてきた。私は寝巻きを整えると、襖を開けた。煉獄さんはお酒一瓶とお猪口を二つ持っていた。ぱっちりと開かれた大きな目を細め笑うと、煉獄さんは「少し飲まないか?」と私を誘った。お兄さんの笑顔だ、と思った。
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