第9章 8話
義勇さんと出会ってから、一年と半年ほど経過した。いつの間にか彼も、二十一歳になっていたが、私にだけたまに見せるいたいけな表情、幼い子供みたいな態度は、変わることはなかった。口付けはするけれど、好きだと言ってくれないところも。
時間の経過により変化したことと言えば、ふたつ。
一つ目は、義勇さんが私の誕生日に贈り物をくれたこと。受け取ってほしいと渡された包みをあけると、桃色の可愛らしいリボンの髪飾りが入っていた。
髪が長いから、似合うだろうと思った。照れた素振りもなく告げる義勇さんの前で、私は髪を束ねるとリボンをつけた。わたしの黒髪が視界の端で揺れた。義勇さんはゆっくりと目を細めた。どうですか? と聞くと、淡白に良いとだけ言った。
その目に、なにか含みがあるように思えて怖かった。気持ち悪さに近しいものを感じたが、表には出さないように努めた。
義勇さんは、私のことを見ているようで、見ていないときがある。目を合わせても、静かな黒い瞳には私は映っていない気がする。
その目を、揺らしてみたいとも思った。その為に私は様々な画策をした。急に口付けをしてみたり、抱きついてみたりした。なにをしても、彼の瞳に変化は生まれなかった。彼の瞳に変化が見えるのは、私が彼の頭を優しく撫でるとき、それだけであった。
おそらく、情欲はない。それでも好きな人と一緒にいられるのならばそれで良かった。愛を囁かれなくても、恋人のように扱われなくとも、そばにいれるのならば。
私はきっと、誰かに似ているのだ。
また、変化したことの二つ目は、私に新しい友達ができたことだった。新しい友達は二人いた。煉獄さんと宇髄さん。
冨岡さんの二十歳の誕生日、お店に来てくれた彼らといつの間にか私は仲良くなっていた。特に歳が近い煉獄さんは、私の良き理解者だった。
私と煉獄さんは、月に数度ほど一緒に食事をする仲だった。毎回ではないが、煉獄さんの家に呼ばれることもあった。
煉獄さんは立派で人格ができたていて、千寿郎くんもいい子だったが、煉獄家にはいつもどこか、ぽっかり穴が空いているような雰囲気があった。そして他人の私が入り込むとその穴がさらに広がりそうな感覚がしたから、私は煉獄さんの家に上がるのは、本当のところを言うと、少し苦手だった。