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わらべ歌【冨岡義勇】

第8章 7話



その場を収めたのは煉獄さんだった。宇髄さんを私から引き剥がすと、「迷惑をかけてすまなかった!」と大きな声で謝った。

「我々はここで失礼しよう。冨岡、もう少しここに居るといい、せっかく二十歳の誕生日なのだから。お館様への報告は俺と宇髄でしてこよう」
「あら、冨岡さん、誕生日なんですか! それも二十歳の……」
何となくわかってはいたが、冨岡さんは私より年上だった。冨岡さんは小さく頷いた。

煉獄さんは宇髄さんを引きずるようにしながら店を出る。別れ際、宇髄さんは雑に私達に手を振りながら、「腰抜けのとみおか〜、酒でも飲ませてもらえよ〜」と冗談っぽく言った。

私と冨岡さんは二人残される。彼が生まれてきたことを、ささやかでもいいから祝いたいと思った。この後、彼に予定がないといいけれど。ないならば、同じ時間を過ごしたい。

「おめでとうございます」と言うと、冨岡さんは私の目を子供のように真っ直ぐと見つめた。冨岡さんはたまにいとけない雰囲気を醸す。

今日は、いつもより早く店じまいをする日なんです。夜、お時間ありませんか?

冨岡さんの形の良い耳に口を寄せて、ぬるい息を吐きながら尋ねた。彼から離れる。彼は首を傾げさせながら、微笑んだ。彼のはっきりとした笑顔、初めて見た。



常連さんの誕生日を祝いたいの、と言うとお父さまは簡単に了承してくださった。俺は裏で片付けと明日の仕込みをしているから、自由にしていていいぞ、あまり羽目を外し過ぎないように、と言うと、質のいい日本酒をあけてくださった。

店を閉めたから、必要最低限の明かりだけをつけることにした。私と冨岡さんの周囲のみをぼんやりと照らす電灯だけでは光は足らず、薄暗い。暗闇でみる冨岡さんの黒髪は、明るいところで見るよりも真っ黒に見えた。

「お誕生日おめでとうございます」
改めて私は言った。囁くような声だった。冨岡さんも同じくらいの声量で、「ありがとう」と言うと、お猪口を傾け日本酒を飲んだ。からい、舌がぴりぴりとする、と不思議そうな顔で呟いた。

「辛口ですから。でも口当たりはすっきりとしているでしょう?」

お父さまから聞いた味の特徴をそのまま引用した。冨岡さんは「そうだな」と同意した。
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