第8章 7話
空が透明に近い色で澄んでいた冬の日、冨岡さんが初めてご友人を二人連れてご来店なさった。そのご友人達は、宇髄天元さんと煉獄杏寿郎さんと名乗られた。宇髄さんは顔立ちの整った方で、煉獄さんは溌剌とした方だった。
宇髄さんは、度々厨房にいる私を呼んだ。そして、なるほどねぇ、と独り言を言いながら、私を眺めた。
頭のてっぺんから足の先まで眺め、品定めするような不躾な視線は慣れたものではなかった。「宇髄、彼女が困っているだろう!」と煉獄さんが宇髄さんを窘める。何を言われようと宇髄さんは気にしていない様子だった。
注意を他に向けたくて、「みなさん、仲がよろしいんですね」と言うと、宇髄さんは首を横に振った。
俺と煉獄は良いけどよ、冨岡は、と本人の前で隠すことなく言う。それにただの任務終わりだ、飯でも行こうとしたら冨岡が最近やけに贔屓にしている店があるからよ、なにかあると思ったら、これだ。
私を指さしながら宇髄さんは並べ立てた。任務、という言葉が気になったが、とても聞き返せる雰囲気ではなかった。煉獄さんは困ったように眉を下げつつも、好奇心が抑えられていない様子だった。煉獄さんは机から身を乗り出した。派手な羽織が揺れる。
「冨岡と貴方は、その……良い仲にあるのか?」
煉獄さんの目は爛々と少年のように輝いていた。私は何も言わずに首を横に振った。冨岡さんも口を挟んではこなかったけれど、迷惑そうに眉間に皺を寄せた。お二人は冨岡さんと私を交互に見る。
「へぇ〜」と宇髄さんが含み笑いをした。
「もったいない、上玉じゃないか。冨岡も腰抜けだな」と冨岡さんに意地悪げな視線を向ける。
「俺ぁ、嫁さんが三人いるんだがよ。どうだ、四人目は?」
宇髄さんは私の隣に立ち、私の肩に手を回した。丸太のような腕からずしりとした重みを感じる。宇髄さんが本気でないことは明白だったが、冨岡さんのお友達だしお客さんでもあるから、あまり失礼な態度は取れずに困って苦笑いを返した。
「宇髄」と名前を呼ぶ声は、地を這うように低かった。冨岡さんのこのような声は聞いた事もない。少し驚いた。冨岡さんの方に視線を向けると、黒い瞳が強い意志を持ってこちらを見すえていた。宇髄さんは面倒臭そうにへらへら笑いながら、へー、へー悪かったですね、とおちゃらけた。