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わらべ歌【冨岡義勇】

第7章 6話


何があったかは聞かなかった。聞けなかった。ただ都合のいいように解釈をして、喜ぼうとしている胸の奥のもう一人の私を、強く叩いた。

――嘘ついたら、はりせんぼん、飲ます。はり、せんぼん。

頭の中で子供の甲高い声が呪文のように木霊した。飲ませる針なんて、ないくせに。そうですか、とだけ私は言った。そうだ、とだけ冨岡さんは返した。

顔が熱い。あの、雷鳴と共に私に残った熱が体の中に渦巻いている。このほてりをごまかしたい。共有したい。わたしだけ、熱に浮かされたように苦しみたくない。

彼は随分と長い間外にいたのか、肩越しに伝わる体温が冷たくて気持ち良かった。私はよろめいたふりをして彼にもたれた。冨岡さんはなにも言わない。動きもしない。

ばか、いくじなし、まぬけ。口の中で噛み潰すように唱えた。ばか、ばか。ふらりふらりと宙を漂う私の指先が、冨岡さんの大きな手に触れる。ここから先にはいってはいけない。本能のようなものが警鐘を鳴らしていた。けれど止められなかった。革命のようなものだった。

彼は決して、私の指先が彼の手に触れていることについて言及しなかった。私の指先から届けられるであろう熱にも。そういうところが、大嫌い。大っ嫌い。

「ねぇ、冨岡さん」
「……なんだ」
「なんでも、ないんです」

はり、せんぼん。突き刺すような痛みが指先に走った。全部、冨岡さんに伝わってほしいと思った。

愛しさに最も近い感情は、憎しみだと思う。憎しみは殺意にすら変わると思う。愛は暴力だ。
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