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わらべ歌【冨岡義勇】

第6章 5話


雨音と雷鳴の間をぬって、冨岡さんの心音が聞こえてくる。胸の奥が苦しくて、もものあたりが擽ったくなった。私は足を擦り合わせた。作業着の間から露出された私の白い太ももは、汗をかいていたから魚の腹のようにてらりと光った。

首を傾け冨岡さんを上目遣いに見上げると、黒光りする瞳と目が合った。時たまに襲いかかる黄色い閃光を反射させる冨岡さんの目は、怪しく光って見えた。

恐ろしさすら覚えた。自分より数段大きな、筋肉のついた体、叩いてもびくともしなそうな胸板。太い腕、節くれだった指。

ぜんぶ、わたしにないものだ。このひと、わたしのことを殺そうとおもえば、いつでも殺せるんだわ。

そう、思った。

冨岡さんの前では、私は人間ですらなく無力な小動物だった。先程とは違った種類の体の震えが私を支配する。そんな私に気がついてか、冨岡さんは私の手首をとった。冨岡さんの手は私の手首に簡単に回る。悪戯に力を込めてみるも、なにも変わらなかった。

「大丈夫か……?」

腕の力強さとは裏腹に、優しい声で冨岡さんは尋ねた。私はただ無心で冨岡さんを見つめた。ひかる、ひとみ。きらきらとは少し違くて、鈍い光だ。とみおかさん、と私は呼んだ。甘く濡れている声だった。

遮二無二、正面の黒い影が、動く気配ががした。ひかり、ひかりが近づいてくる。私を飲み込もうとするひかり。肉食獣みたい。切れ長の目からほとばしるそれに、見とれていた。

熱さを知った。雷が何度も鳴っていた。雨音に呼応し、心臓の拍動が高まった。彼に聞こえてしまいそうで怖かった。真っ暗闇は閃光によって染められた。顔に影ができたり消えたりして、冨岡さんの鼻高いなぁ、なんて場違いなことを考えていた。
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