第5章 4話
硬い手のひらが私の手の甲に触れる。離れる瞬間、彼が私の手を軽く撫でた気がしたが、おそらく気の所為だ。そう、言い聞かせた。
見下ろしつつ彼の表情を伺った。冨岡さんの切れ長の目は、射抜くようにこちらに向けられていた。目を合わせると、私はにっこりと笑った。わざとらしさすら感じさせるほどだった。
結局、その日冨岡さんは私に用事があったのか、尋ねることはできなかった。ただ、好きだという言葉だけが私の耳にこびりついていた。すきだ、すきだ。料理を作りながら、頭の中で反芻した。どういう意味だろう。