第1章 『最終選別』
全集中・水の呼吸、肆の型─"打ち潮"
飛び掛かって来た鬼へ向けて技を仕掛けるが、余り手応えは感じられない。
「くっ、浅い!」
「ケケ、その程度じゃ俺様は切れないね」
鬼を見たのは初めてではないが、嘲笑う鬼は余りに醜悪で、藍華は一瞬だけ怯んでしまった。
その隙を鬼が見逃す筈は無く、藍華を殺そうと再び飛び掛かってくる。
「さっさと俺様に喰わせろォ!」
「──二度も同じ手をを使うなんて馬鹿なの?」
すぐに体勢を整えた藍華は、地面を蹴って飛び上がると両手を交差させて身体に巻き付け、タイミングを見て刀を振り抜く。
水の呼吸、壱の型─"水面斬り"
「ガぁアァァ!」
今度こそ確かな感触があって、着地と同時に刀の血を振り払い鞘に納めた。
藍華が振り返ると鬼の頭が転がっており、体と頭部が灰になって崩れ始めていた。
「な、何で…俺様が負けるなんて…」
藍華は鬼に対して情なんて湧かないと思っていたが、不思議なもので、街のガキ大将の様なこの鬼のあどけない表情を見ていると、来世の幸せを祈ってしまう。
今の姿は鬼でも確かに人だったのだと、頭で理解する事と心で感じる事は全く違って。
藍華は鬼が完全に塵となって消えるまで手を合わせ、最後を見届けてから走り出す。
──願わくば、鬼達が来世で鬼になる事がない、幸せな人生を歩む事を。