第1章 『最終選別』
藤の花を超えると、一気に当たりの空気が変わったのがわかった。
夜が更けていくのも相まって、ねっとりとした粘着質な闇が纏わり付く。
――しかし、だからといって藍華が冷静を欠くことはない。
藍華は鬼と戦ったことこそないものの、あらゆる事態を想定して修行を積んできたのだ。
それもみっちり、3年間。
千代は相手の強さが色の濃淡で見えるらしいが、藍華はそんな事はないし、何か他の能力もない。
一般的な身体能力しか無く、更には女である為ただひたすら鍛錬あるのみだった。
修業を始めたばかりのころ、藍華が初めて夜を一人で過ごした時に大泣きしたのは今となっては笑い話だ。
あまりの煩さに見かねて千代が迎えに来てくれた。
修行によって生傷は絶えなかったし、刀に慣れるまでは暫く手が血だらけだった事もある。
それでもめげずに今、藍華はここに立っている。
血反吐を吐いたような辛い日々も、全ては鬼を滅するために。
「───ふぅ、」
深呼吸をしたところで、藍華の耳が地面を踏み締める音を捉えた。隠す気も無いのか、とても荒っぽい足音だった。