第1章 『最終選別』
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十日余りかけて、藍華はついに藤襲山へと辿り着いた。
藤が狂い咲いていると千代からも伝え聞いてはいたが、やはり実際に見ると迫力が違う。
「綺麗…」
ため息をつきたくなるほど美しい景色に、藍華は暫し時を忘れて見入ってしまった。
ふと強い風が吹き、藍華はまるで夢から冷めたかのような気持ちで我に帰る。
(また悪い癖だ…最終選別なんだから気合いを入れないと!)
藍華は何かに夢中になると物凄い集中力を発揮するらしく、使いどころに気を付けろと千代に口酸っぱく注意されていた。
綺麗だから仕方ないなんて、藍華は言い訳を心の中で呟きながらも幻想のような藤の下の階段を登っていくと、山の中腹辺りで開けた場所に出た。
そこには、沢山の入隊希望者達がいた。
ざっと二十人は下らないだろう。
(こんなにもたくさん…)
当たり前だが誰もが真剣な表情で、藍華もそれを感じて気を引き締める。
ピリッとした緊張感が走る中、誰も移動したり話したりする者はいない。
藍華はそこまで集中している雰囲気に気後れしながらも、ただ立って待つ。
藍華が立って待つという選択を後悔し始めた頃、新たに一人の少年がやって来た。
瑞雲柄の羽織を着ているその少年は、赤みがかった髪と瞳を持ち、優し気な顔立ちをしている。花札のような耳飾りが印象的だった。
「皆さま、今宵は鬼殺隊の最終選別にお集まり
下さって、ありがとうございます」
何処からか透き通った二人の声が聞こえ、藍華は声のした方を向いた。