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【鬼滅の刃*冨岡義勇】泡沫の如く

第1章 『最終選別』




***


ある晴れた日だった。
雲一つない、これ以上ない程の快晴。

まだ太陽が昇ったばかりの早朝、ある山の麓にぽつんと建つ家の扉が開いた。


「師範、それでは行ってまいります」


外に出た藍華は振り返って、後から出てきた千代に向かって言う。


「えぇ。…どうか生きて帰ってきて」


それに答える千代はいつもの厳しさは鳴りを潜め、ただ藍華を案じる表情だった。


「きっと選別を突破して見せます!」

「ふふ、意気込むのは良いけれど…。二つ約束して。無理はしない事と、時間を常に確認する事。分かった?」 

「はい、約束します」


師弟はお互い見つめ合い、別れを惜しむ。

師弟という関係性もそうだが、それ以前に二人は親子のような存在だった。
千代は藍華が赤子のころから知っているし、藍華も千代を親のように慕ってきた。

そんなつもりはなくとも、今生の別れとなるかもしれない今、お互い離れがたかった。


やがて名残惜しさを振り切るように藍華は一度目を瞑り、行って来ます、と再び告げた。


「いってらっしゃい。気をつけて」


千代はぎゅっと藍華を抱擁して送り出し、家に背を向け歩き出した藍華の後ろ姿を見つめる。

いつの間にか千代を越していた藍華の背がとても頼もしく、その成長が嬉しくも寂しい、複雑な気持ちにさせられた。

後ろを振り向かず、ただ前を向いて歩む藍華の肩には千代と同じ、藍色に染まった布地に艶やかな花が咲く羽織が掛けられていた。

藍華の漆黒の髪と藍の羽織が風に靡く。
このまま太陽に吸い込まれてしまいそうだと千代は思った。


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