第1章 『最終選別』
「最終選別に行っていいわ」
「…へ?」
藍華がそう師範──千代に告げられたのは、余りに唐突だった。
藍華はくりっとした藍色の瞳を更に大きくして驚愕を表す。
いつも通り朝起きて修行をして、夕餉の準備をして食べ始めた今さっきまで、千代は全くそんな素振りをしていなかったのだ。
千代に育てられてもうすぐ16年になる藍華が驚くのも無理は無い。
「余り乗り気ではないかしら」
「い、いえ!凄く嬉しいですけど、
急だったので驚いて…」
藍華は取消されては困ると慌てて弁明する。
千代はその姿を微笑ましく見ながらも、こんなに長引かせてしまった自分の弱さに心の内で自嘲していた。
正直なところ、最終選別を突破する程度の実力だけならば、藍華は2年前の時点でとっくに習得していた。
だと言うのにここまで長引かせてしまったのは、ひとえに千代自身の我が儘なのだろう。
最終選別に行かせたくないと言う思い、藍華を死なせたくないと言う思い。
だがそのおかげで藍華は、鬼殺隊の上級剣士にも勝るとも劣らない実力を付けた。
そこまできてようやく、千代は決心がついたのだった。
その間に亡くなった、藍華が救えたかもしれない犠牲者達と、これから藍華が救う人々。
どうすればよかったかなんて誰にもわからないが、それでも千代は頻繁に考えては、藍華が強くなることで救える人も増え、藍華自身も長生きできると自分を納得させるのだった。
「最終選別はふた月後です。その時間を使って最後の仕上げをなさい」
「はい!」
元気に返事をする藍華に千代は微笑みかけ、二人は食事を続けるのだった。