第1章 『最終選別』
思考を巡らす義勇だが、それは長く続かない。
少女が何かに躓いたのか、ぐらりとよろめいて倒れそうになったからだった。
「…おい」
柱としての身体能力を生かし、義勇は少女を間一髪で抱えると声をかける。
しかし少女の瞳は閉じられていて、義勇の呼びかけに答えることはない。
「おい」
もう一度呼びかければ、少女の目がゆっくりと開かれた。
そうして現れた藍色の美しさに義勇は目を奪われ、一瞬言葉をなくす。
底なしの海のように深く、なのに澄んだ明るさを感じさせる不思議な色合い。
清廉な凪いだ水のような義勇の瞳とは、似て非なる色。
「あぁ、良かった。人だ…流石に死ぬかと思いましたよ」
その色に吸い込まれるような錯覚すら感じていた義勇は、少女の声で現実に戻る。
「お前は何故こんなところにいる」
「最終選別受けたんですけど…いつの間にか七日過ぎちゃって。帰ろうと思ったら道が…」
少女は話している途中で再び眠り込んでしまった。
(事情はなんとなく分かったが…)
困惑する義勇の腕の中で、少女はすやすやと穏やかに眠っていた。