第1章 『最終選別』
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最終選別が終わって約三週間後。
水柱である富岡義勇は、鬼を補充するために藤襲山へ来ていた。
人を数人程度食った鬼というのは案外見つけ辛い。
というのも、鬼殺隊は主に被害を受けないと鬼達の居場所がわからないため、遭遇する鬼は大抵もっと食っているからだった。
そんな中雑魚鬼を一気に二体生捕りにできた義勇は、傍目にはわからずとも普段より少し機嫌が良かった。
鬼を山に放つと、義勇は足取り軽くさっさと下山し始める。
…と、視界に何かが映った気がして足を止めた。
これほど藤の花が咲き乱れている中だ、ただの見間違いである可能性もあったが、機嫌が良かった義勇は念の為確認しようとそちらへ向かう。
やはり勘違いではなかったようで、藤の花の下でふらふらと歩く人の後ろ姿が見えた。
性別は恐らく女。濡れ羽色の髪は肩下で切り揃えられており、藍の布地に花が咲く柄の羽織を着ていた。
そして――腰に下げられた日輪刀。
(鬼殺の剣士か…?)
義勇は辺りを付けるが、しかしこの山に用があるのは大抵鬼の補充のためにやってくる、柱か柱近くの実力を持つ剣士だけだ。
だが義勇の記憶の限りでは、この人物は勿論柱ではないし、上級剣士にもいなかったはずだ。
義勇はここ数年は顔触れが変わらない仲間の姿を思い出しながら、少女が誰にも該当しないことを改めて確認する。