第1章 背伸び [煉獄杏寿郎]
煉獄のアパートの駐車場に到着し、車から降りると
「ありがとうございましたっ」
と、煉獄へとお礼の言葉を送る。
いいえ、と、トランクからトリの鞄や荷物を取り出して
持ちますー!と、周りをうろつくトリを制して、アパートの部屋へと向かう。
お邪魔します、と、扉を開けて小さくお辞儀するトリ。
くすりと笑ってはい、どうぞと、部屋の中へ通す。
「疲れて居ないか?今日は朝からありがとう。」
「いいえ、杏寿郎さんこそ、私のわがままに付き合ってくださって、運転も、全部お任せしてしまいましたし…途中で私寝てたし…」
と、語尾が聞こえないくらい小さな声で自分がやってしまったミスについてまた思い出してしょんぼりしているトリ。
ははっと大声で笑う煉獄にまたむーっと頬を膨らますトリ。
ふんすふんすっと怒りながらトリは台所へ行って2人分の飲み物を用意する。
(怒っているんだか、いないんだか…)
どこに座って良いかわからず、煉獄から離れた所に座ろうとするトリに
「こっちにおいで、トリ」
ぽんぽんっと、煉獄が座っているソファの隣を叩く。
こくん、と頷いてちょっと煉獄との隙間を開けて隣に座る。
テレビの音がやけに大きく響いている様な沈黙が走る。
話したい事、聞きたい事、確認したい事、伝えたい事、沢山あるのにこんなに話せないとは…。
(男として不甲斐ないな、10も離れているというのに、こんなにも億劫になるとは…)
そう思って口を開くと
「杏寿郎さん」
「トリ」
えっ?と、声が被って顔を見合わせる。
ふふ、はははっと2人で笑いあう。
話始めようかと煉獄が悩んでいるとトリが先に話始めた。
「私、杏寿郎さんの隣を歩く彼女として相応しくなりたくて。」
うん?と、ゆっくりトリが話す言葉に耳を傾けた。
高校生の時に付き合っていた時の方が自然体で接する事が出来ていた事
専門学校へ行ってから周りの同級生が大人っぽくて焦ってしまった事
煉獄に見合う様に、服装や化粧を変えたけど、上手く出来ていなかった事
好きでもない自分と無理してお付き合いを続けているのではないかという事
私だけ好きなのかと不安を抱いていて最近会っても楽しめていなかった事
ゆっくり自分の言葉で話した。