第1章 背伸び [煉獄杏寿郎]
折れたという言葉が正しいのか、トリを受け入れたと言って良いのか、煉獄が生徒と教師の壁を壊してしまったかというのか…どの言葉が正しいのかはっきりとはわからないが。
(幸せだと感じていられるから良いのか)
トリの笑顔を煉獄に向けられるとほわっと心が落ち着くと煉獄は感じていた。
ただ、トリが専門学校に上がってから違和感を感じ始めた。
専門学校に上がったからか、周りの友達の影響で服装や化粧が変わったのに、気がついていた。
(無理をさせているのか、それとも同じ学校に気になる奴でも出来たのか…)どっちにしてもトリから上手く聞き出せなくて、週末や平日の夜に会ってもいつもの様な自然なトリの笑顔が見られなくて。
煉獄に向けてくれるトリの笑顔を見ても真実を確認する事が出来なくてもやもやしていた。
それにしても…
ふーっと…大きなため息をつく煉獄。
(さっき、なんであんな挑発する様な事をしてしまったんだ…!家でお互いの事を正直に話してからって決めていたのに…。男として不甲斐なし…!)
運転中のため、ハンドルから手を離す事は出来ないがすやすやと眠るトリの隣で煉獄は悶えながら運転した。
「ふぁっ、寝てました!?」
ああ、涎も垂れていたぞ。
と、くすくす隣で笑う煉獄を嘘だーと、太腿を叩くトリ。
怒っていたかと思うとすぐしょんぼりして
「すみません、寝てしまって…。せ…杏寿郎さんももお疲れなのに。お話相手にもらなれず…」
名前を呼び慣れていないトリは恥ずかしがったり落ち込んだり忙しそうだった。
煉獄はなぜそんなに落ち込むのかわからなかったが、煉獄に運転を全て任せて負担をかけているのにと私だけ休んで…と、トリの優しい一面だと気がつく。
ふっとトリに対して笑い、良いんだよ、と、ぽんっと頭に手を乗せて、家でゆっくり話が出来るだろう?と、明るく言う。
スンっと、涙を流しそうにうるうるとしていた瞳が、はいっと目尻が下がり、煉獄へ送られるトリの笑顔を見て、久し振りに煉獄の心が落ち着いた。
晩ご飯はランチの時間が遅く沢山食べたからあまり入らないと、トリは伝えると、じゃぁ、軽くつまめる物でも買って帰ろう。と、煉獄は提案をする。
はいっと嬉しそうにまた煉獄に笑顔を向ける。