第1章 背伸び [煉獄杏寿郎]
「なんか、私の中で勝手に杏寿郎さんの気持ち決めつけてしまって、1人で疲れてしまって…。
でも、昔、先生から言ってもらった言葉、思い出したんです。」
「やりたい事がわかっているのに、諦めるのか、自分を優先してみたらどうだって。」
覚えていますか?と、優しく甘く微笑むトリ。
もちろん、覚えてるよ。と、煉獄はトリの手を握る。
とくんっと、少し鼓動が早くなり体温が熱くなったのを感じたトリだが、匂いで煉獄も同じなのかもと、ゆっくり呼吸を整える。
「大人ぶって見繕った私を杏寿郎さんに見て貰ってもそれは偽物の私で、そんな私を好きになってもらっても嬉しくないなって。だから、今のままの私を見てもらいたくて。まだまだ子供だけど、その成長を隣で見ていてもらいたい。」
真っ直ぐ、煉獄を見つめるトリ。
偽りの無い、澄んだ瞳から目を離せなくなる煉獄。
ふっ、と、眉尻を落として優しく笑う。
その優しい匂いに包まれてトリは煉獄に手を強く握られる。
「トリが思っているより、トリは子供ではないよ。」
と、煉獄も優しく話し始めた。
高校に入学して来た時からトリの事が気になっていた事
その時は恋だと気がついていなかったが、目が離せなかった事
進路相談の時、俺に心を開いてくれたトリを守りたいと思う様になった事
トリへの気持ちに気が付いてから周りの生徒、教師に嫉妬していた事
トリが好きだと言ってくれたのは憧れからでは無いのかという不安
専門学校へ進学してから、服装や化粧が急に変わり、別に気になる人が出来たのかと嫉妬した事
笑っている姿を見ても無理させている様に感じていた事
それを確認したくても別れを切り出されるのが怖くて聞けなかった事
「小さい男だろう?」
と、自傷気味に笑う煉獄にううん、と、首を横に振るトリ。
「もう気を遣わないでくれ。俺の前では誰にも見せないトリの表情を見せてくれ。」
へへっと、照れ臭そうに笑うトリの目尻からつぅっと涙が溢れた。
ぐっと、肩を抱き寄せてトリを胸に引き寄せる。
「泣き虫なのは相変わらずだな」と、頭をぽんぽんと撫でて優しくあやす甘い煉獄の匂いにくんっと匂いを嗅ぐ。