第1章 背伸び [煉獄杏寿郎]
無事にご両親を見つける事が出来て、男の子と別れたのはもう夕方で。
もう一度行きたいと言っていたところは良いのか?と、煉獄が問うと
「また、次に先生と来る楽しみに取っておきます!」
と、少し照れた様な優しい微笑みをトリは煉獄に向ける。
車へ戻ると、
運転、宜しくお願いします。
と、また礼儀正しくトリが伝えるものだから、ふふっと煉獄は笑ってしまった。
また子供っぽいなーって馬鹿にしたでしょーと、むーっと頬を膨らませたトリ。
ぷいっと、窓の方に顔を向けている姿、少し照れて頬を紅潮させている姿に
「先生じゃないだろ?」
「…杏寿郎、さん?」
そう振り返った瞬間、顎を煉獄の指で捕まれて、目の前に綺麗な煉獄なら顔があった。
ちゅっと、唇を落とされたのはトリの額で。
続きはまた夜だな。と、トリの耳元で囁く。
トリは大人しくなったかと思うと、耳まで真っ赤にして助手席で悶えていた。
煉獄の方を見る余裕がなかったトリは煉獄もまた顔を紅潮させているとは知らなかった。
すやすやと、煉獄の左隣から寝息が聞こえる。
(子供の様な寝顔だな、まったく…。かと思えば大人なら表情も仕草もする。…俺はトリと釣り合っているのか…?)
煉獄もまた、トリと同じ様に悩んでいた。
高校の時から気を遣えて、面倒見も良くて、同世代からも後輩からも先輩からも教員からも慕われていたトリ。
いつも視界に入ってくる優しい笑顔に声に、気が付いたら煉獄自身も惹かれていた。
生徒と教師の立場からその感情が恋だとは思っていなかったが、あれはトリとの進路相談での二者面談の時。
いつも大人の様な表情を見せているトリの本音を聞きたく、少し厳し目なことを言うと、目の前で泣いた。
言い過ぎたと、焦ったが、先生、ありがとうという言葉をトリから聞けて、ほっと胸を撫で下ろした。
強がっていたり、大人ぶっていたり高校生らしからないなとは感じていたが、こんな表情も出来るのか…と。
気を許してくれたと、この子を守りたいなどと思うようになったのもそのくらいから。
トリが3年に上がってから、猛アプローチを受ける。
気持ちを落ち着かせるのに必死だった、なんていうと笑われるだろうなと、煉獄の乾いた笑いが響いた。