第2章 [冨岡 義勇]
「あ、冨岡さん」
訓練を終えたトリが冨岡の姿を見つけて駆け寄ってくる。
訓練後のせいで頬を紅潮させてハンカチで汗を拭いているトリ。
着物を着ており、カランっと、可愛らしい下駄の音を鳴らして、オレンジのグラデーションの羽織りが日の光にきらきらと輝く。
「お帰りなさい、任務お疲れ様でした」
と、数週間振りに会う好意を抱いてる女性に対して心は跳ね上がっているが、先程見ていた隊士の欲、トリの怒らない様、冨岡にとっては不満でしかなかった。
短くああ、という返事をして、ずくりと、胸が疼く。
言葉を発さない冨岡を見つめて、トリはふっと優しく微笑む。
するりと、冨岡の頬にトリの指が伸びる。
ふわりと掌全体で頬を包み、親指で傷口に触れる。
「ここ、切れて傷になっていますね。今、しのぶちゃんに薬と消毒薬を貰ってきま…」
トリの手を払い退け、必要無いと顔そらし、足早にその場を立ち去る冨岡。
(ああ、なんでああいう言い方、行動しか出来なかったらのだろう。)
久し振りに会えたのに、まともにトリの顔を見ることも話をする事も出来なかった事を後悔しながら、どんっと廊下でぶつかってしまった。
「すまない…」
と、謝り、顔を上げると、胡蝶がくつくつと笑いながら冨岡を見ていた。
何故笑われていると、不機嫌そうに問うと、無自覚なのですね、本当冨岡さんは天然なんですね。と、言われなんの事だ?と、わからなかったが
顔の傷の消毒と薬を胡蝶に頼んだ。
長期任務後でもあった為、診察しますと胡蝶に言われ、大丈夫だと言った冨岡だったが、所々傷があったり、ほぼ無症状だが、血鬼術の影響を受けている事がわかった。
影響力が強くない血鬼術だし、時間が経つと時期消えると胡蝶は分かっていたが、何か思い付いたかのように冨岡に提案をする。
「傷も多いし、血鬼術にも掛かっていますね。それは私より、トリちゃんの方が得意なのでトリちゃんに任せることにしましょう。」
「…は?」
だから、と、同じ事を冨岡に説明をする。
専用のお部屋に早く行って下さいと、ぐいぐいと冨岡の背中を押して診察室から追い出す。
しぶしぶと歩き出す冨岡に、胡蝶は冨岡さん、と声を掛ける。
「素直になって下さいね」
「…煩い」
くすくす笑いながら冨岡を見送る胡蝶であった。