第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルの一言に、フロイドはもちろんジェイドもユウも動きを止める。
「はぁ~? 当ったり前じゃん。……めんどくせぇから、嫌とかダダこねんなよ?」
後半は凄みが利いた声で脅され、自分に言われたわけでもないのにグリムが「ひッ」と喉を鳴らした。
191cmの長身で凄まれると、それはそれは迫力がある。
でも、ここで引くわけにはいかないので、ヒカルは間髪入れずに首を横に振った。
「嫌。」
「……あっははぁ、それ、マジで言ってんのぉ?」
フロイドが纏う空気がひやりと冷たくなり、びりびり肌が粟立った。
うん、怖い。
「ヒカル、迷惑かけて悪いんだけど、ここはおとなしく言うとおりにしよ?」
慌てたユウが仲裁に入ろうとするが、ヒカルが退去を嫌がるのには理由があるのだ。
「そうは言っても、わたしは一応クロウリーに雇われてる身だし、寮生ってわけでもないでしょ?」
オンボロ寮の長は、正式に認められていなくてもユウが担っている。
ゆえに寮生であるグリムは従わねばならないが、ヒカルは違う。
生徒同士の取り決めに、ヒカルが従う理由はない。
「それにわたしは女だし、他の寮にご厄介になるわけにはいかないもん。なにか問題があった時、原因がアズールくんにあるってなったら、そっちも困るんじゃない?」
後頭部にユウの視線が刺さった。
「自分も女ですけど?」と言いたげだが、諦めてくれ。
ユウのことは、サバナクローが面倒を見てくれる。
だけど、ヒカルまで受け入れてくれるはずもなく、宿無しになるのは勘弁だ。
「そんなの知らねぇよ。オレらに関係ねーし。いいからさっさと…――」
「待ちなさい、フロイド。」
力技で強制的にヒカルを追い出そうとしたフロイドを止めたのは、黙って話を聞いていたジェイドだった。