第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
恋心に気がつくまでは、レオナになにをされてもよかった。
ワンナイトラブの相手に選ばれたのなら喜んで奉仕するし、一生の思い出にもできる。
でも、彼に本気の恋をしてしまったと気づいた今は、例え一夜の恋であっても、戯れに恋人ごっこをするつもりにはなれない。
終わってしまった時、心が死んでしまいそうだから。
またあくる日の夜に、自分じゃない別の誰かが彼の隣に侍るのか、と想像してしまいそうだから。
「計画の邪魔をしたのは……悪かった、けど、仕返しをするなら別の方法に、して。」
呼吸が触れ合うほどの距離にいるレオナを見ないように顔を背けながら、息も絶え絶えに伝える。
今はもう、レオナを見つめるだけで辛い。
しかし、失恋中の乙女の心なんて獰猛な獣にはわからないのだろう。
グルル……と喉を唸らせながら、残酷な命令をしてくる。
「……おい、こっちを向けよ。」
「……。」
「こっちを、向け。」
レオナの声には、人を従わせる効果でもあるのだろうか。
絶対に見ないと思っていたはずなのに、固い意志は豆腐のように脆く崩れ去り、視線を彷徨わせながらゆっくりと、確実にレオナの方を向いてしまう。
最終的には顎を掴まれて無理やりに視線を合わされ、いよいよ逃げ場がなくなる。
「……で? 仕返しがなんだって?」
「だ、だから、仕返しは別の方法にし――」
以下の言葉は紡げなかった。
大型の獣に噛みつかれたからだ。
唇に。
「ん、んぅ……ッ」
無遠慮な舌が口内を侵し、暴れ回ってはすべてを奪っていく。
呼吸も心も、すべてを吸い尽くして離れていき、そして。
「は、ふぅ……、んぁッ、痛ぁ……!」
息も整えられず胸を上下していたヒカルの首筋に、痛みが走る。
再び柔い肌を舐めたレオナが、がぶりと噛みついたからだ。
「ああ、悪い。やり方を間違えた。こう……だったな?」
棒読みで謝りながら今度は唇だけを寄せ、ちゅっと甘く吸いつく。
血液の循環が多い首筋にはあっという間に痕が残り、白い肌を赤く彩る。
戸惑うヒカルに二個、三個と同じ痕を残しながら、修復したばかりの作業着の胸もとを引っ張った。
そこには未だ消えぬ昨夜の情熱の痕跡が残っていて、親指の腹でキスマークを撫でたレオナが喉を鳴らす。
ご機嫌な猫のように、ゴロゴロと。