第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
「その気がなくなったって、どういうこと? 大会で優勝するために、今まで暗躍してたんじゃなかったの?」
「そのはずだったんスけどねぇ。レオナさんが急に……、作戦はなしだ、実力勝負する!なんて言い出すから、オレの今までの苦労が水の泡ッスよ。」
「えー……?」
俄かには信じられず、ちらりとレオナに視線を向ける。
「……なんだ、その顔は。信じられねぇって表情をしやがって。」
いや、だって、あのレオナが真っ向から実力勝負をするなんて、猫が逆立ちで校庭一周をするようなもの。
すなわち、ありえない現象だ。
「お前が……、お前があんなことを言うからじゃねぇか!」
「え、わたし?」
「あーあ、ヒカルくん。本当にレオナさんの尻尾を踏むのが上手いッスねぇ。こりゃ責任取らなくちゃ。」
なにを言っているのだろう。
ヒカルがレオナの尾を踏んだのは、後にも先にも一度きり。
説明を求めようとしたら、ぐんとヒカルの足が地面から離れた。
「こんなところでお喋りしても時間の無駄だ。今朝はよくも逃げてくれたな? 昨夜の落とし前、きっちり取ってもらおうじゃねぇか。」
「わ、ちょ、レオナくん!」
レオナの肩に荷物の如く担がれたヒカル。
まるで三日前の出来事を再現したようで、修復不可能となってしまった関係をやり直せるような錯覚を抱く。
「俺は先に戻るぞ、ラギー。」
「了解ッス。……あ、レオナさん。例の約束、忘れないでくださいよ?」
「しつけぇ野郎だ。わかってると言っただろ。」
レオナとラギーの間で密約のようなものが交わされたと思ったら、ヒカルを抱えたライオンが猛スピードで走り出した。
人ひとり抱えているというのに羽のようなフットワークで、強制的にしがみつかざるを得なくなったヒカルの心が死んだのは、言うまでもない。