第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
早く早くと急かすラギーに、ふと尋ねてみた。
「なあ、ラギー。砂糖が入ってねぇケーキってのは、どんなもんだ?」
「は? 急になにを言い出したんスか?」
「いいから答えろ。」
脈絡のない意味不明な質問を投げかけられたラギーは首を傾げたが、命じられるまま質問の答えを口にする。
「はあ。砂糖が入ってないケーキ? そりゃ、ただの小麦粉の塊……味も素っ気もない食い物ッスよ。」
「……。」
味も素っ気もない食べ物。
そんなものをわざわざ好んで食べる者はいない。
ヒカルにとってレオナは、それほど重要なもの――日々の生活に必要不可欠なものだとでも言うのか。
(なら、俺にとってのあいつはなんだ?)
つい数日前まで、気にも留めないような存在だった。
か弱い女だから、誰かが支えてやらなきゃいけないのでは……そう思わせる程度の女。
その誰かは、決して自分ではない。
面倒事は嫌いだ。
でも、今はどうだろう。
彼女の胸の内を知り、信念を貫き通す強さを知り、体温を知った今は。
誰かが支えてやらねば立てないほど、ヒカルは弱い女じゃなかった。
けれども決して強い女でもなくて、他人の助けは必要だろう。
自分じゃない誰かがその役を買って出たとしたら、なぜだかとても気分が悪い。
俺のものだ。
昨夜感じた執念のような感情を思い起こし、納得する。
そうだ、あの女は、ヒカルは俺のものだ。
好きだと騒いだ瞬間に、唇を舐めた瞬間に、身体を重ねた瞬間に、ヒカルはレオナのものになった。
一度手に入れたものは、決して他人に譲らない。
誰かと分け合うのも御免だ。
アレは、俺だけの女。
そして、ヒカルがいない生活など、まさしく“砂糖が入っていないケーキ”と同じである。
『だって、本当に格好悪いんだもん!』
ヒカルの声が、脳内を反芻する。
これでいいのか、と尋ねてくる。
馬鹿馬鹿しい。
たかが女一人の意見に惑わされるなんて、本当に馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しいけれど……。
「ほらほら、早く腰を上げてくださいよ。オレ、先に行っちゃいますからね!」
「……ラギー、俺は…――」