第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
レオナの眠りを妨げたのは、か細い身体の女の声――ではなく、日常的に世話を焼くラギーの声だ。
「レオナさん! レオナさん! 起きてくださいよ!」
「……んだよ、まだ……寝かせろ……。」
「寝ぼけてないで起きてくださいッス! ヒカルくんはどこへ行ったんッスか!?」
「……ヒカル?」
靄がかかっていたはずの頭がヒカルの名前を聞いただけで晴れ、腕を伸ばして彼女の体温を探す。
「言っときますけど、レオナさんの部屋にはいないッスからね!」
「なに……?」
むくりと起き上がって寝ぼけまなこを擦れば、ラギーの言うことが真実だとわかる。
生意気な口を塞ぎ、淫らな身体を貪り、艶めかしい声で啼いたはずのヒカルがいない。
「談話室には?」
「いないッスよ。寮のどこにもいないから、慌ててんでしょうが。」
「……チッ」
乱暴に髪を掻き乱し、温もりが消えたシーツを握り潰した。
逃がさないように強く抱いて眠ったつもりだったが、逃げ足の速い草食動物は隙を見て外へ出て行ったらしい。
「ったく、なにしてるんスか、もう……。これじゃ、オレのことをとやかく言えないッスよ? ん、ベッドの下になにか落ちて……。」
目ざとくなにかを発見したラギーが、ベッドの下に落ちた小さくて丸いものを拾い上げた。
「これは……、ボタン?」
「……! 寄越せ、触るな。」
ひったくるようにして奪えば、それは昨夜レオナが弾き飛ばしたヒカルのボタンだった。
作業着のボタンは半数以上をダメにしてしまい、どのような恰好で寮から出たのか気になってしょうがない。
「はあぁ~、アンタって人は……。レオナさんが手を出してどうするんスか! 下の連中にも示しがつかないッスよ?」
黙れという意味を込めて睨んでも、ラギーの口は止まらない。
「誤魔化しても無駄ッスからね。この部屋、なんだかメス臭い――」
「おい、嗅ぐな。出ていけ。」
苛立ちを露わに凄みを利かせれば、肩を竦めたラギーがため息を吐く。
「……そんなことより、どうするんスか? そろそろ行かないと、パレードが始まっちまうッスよ?」
パレード。
マジフト大会に参加する選手がコロシアムまで行進をする催し物。
レオナたちが狙う、この悪巧みの終着点。