第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
掴んだ腕は細く、少しでも力加減を間違えれば容易く壊れてしまいそう。
華奢な腕が折れる感触を想像しただけでぞっと背筋が冷え、触れた手のひらに緊張が走る。
なにかに対して“怖い”と思ったのは、いつ以来なのかも思い出せない。
そのくらい、この世界はレオナにとって退屈だ。
学園を退学になっても、母国を追放されても、兄王に反逆者と呼ばれて処刑宣言をされたとしても、レオナは少しも怖くない。
けれど、この脆弱な女の腕を傷つけてしまうのが怖いと感じるのは、いったいなぜなのか。
魔力注いで治癒魔法をかけ、恐る恐る手のひらを外すと、ヒカルの腕からは忌まわしき手垢が消えていた。
「わ、すごい、治った。ありがとう!」
魔法がない世界から来たというヒカルは興味深そうに己の手首を撫で回し、素直に感謝を述べた。
「礼を言う必要はねぇ。もともと、こっちの落ち度だ。」
「レオナくんが悪いわけじゃないでしょ? 言い忘れてたけど、助けてくれてありがとね。」
ヒカルは時折、レオナを呼び捨てる。
主に感情が高ぶった時にそう呼ぶので、心の中では呼び捨てにしているのだろう。
「レオナくん」に戻ってしまった点にどことなく不満を覚え、それから自分はヒカルの名前すら呼んだことがないと気がついた。
「じゃあ、わたしはそろそろ仕事に戻るから。」
腰を浮かして立ち上がろうとするヒカルの肩に触れ、ベッドに押し留めた。
座っていろという合図だったのだが、ヒカルが微かに顔を顰めたのを見逃さなかった。
「おい、肩も痛ぇのか?」
「あ、いや、大丈夫。ちょっと体勢がしんどかっただけで、たいしたことないから。」
「たいしたことがないかどうかは、俺が決めるんだよ。見せろ、肩を出せ。」
「は?」
「二度言わせるなっつってんだろ。肩を見せろ。」
苛立ちを募らせた刹那、ヒカルの顔がぼっと燃える。
押し倒され、跨られ、自ら誘惑したとまで言ったヒカルの顔が、こんな些細な言葉で紅潮した。