第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
ヒカルの奇行のおかげで冷静になったレオナは、浴場の隅で震える寮生二人を睨んだ。
「あいつに助けられたなァ……? わかってるだろうが、次はねぇ。風呂の掃除と、それからあいつがこれからしようとしていたすべての仕事を、お前らだけでやれ。いいな?」
「はッ、はい!」
彼らは生命の危機から救われた。
同時に、レオナも退学を免れた。
その二つの危機を回避できたのは、ほかならぬヒカルのおかげ。
ボコボコにした寮生二人に過酷な労働を押しつけたレオナは、血の匂いを頼りにヒカルを追った。
さっきは「自分から誘った」などと言っていたが、そんなわけがない。
けれど、ヒカルにあんな嘘をつかせてしまったのはレオナだ。
言葉にできない苛立ちを抱えながらヒカルを捜すと、匂いはレオナの部屋に続いていた。
ドアを開けると作業着に着変えたヒカルがこちらを振り返り、レオナの姿を認めて驚いたのち、叩かれた頬を見たのか気まずそうな顔をする。
女に頬を殴られたのは初めてだ。
喧嘩が絶えない荒くれ者の王子とはいえ、これでもれっきとした温室育ち。
だけど不思議と、叩かれたことに対しての怒りは湧いてこなかった。
「来い、座れ。」
顎でベッドを指し示して命じれば、ヒカルは素直に従う。
頬を叩いた報復を恐れているのだろう、彼女の瞳からは怯えの色が窺えた。
(馬鹿にするな、誰が女に手を上げるかよ。)
先ほどのクズたちとは違う。
女性は子を宿し、育む崇高な生き物だから、どんなに強くても守るべき対象なのだと幼い頃から教えられている。
故郷の女たちと違い、やわな平手打ち程度しかできないヒカルは、誰かが守ってやらねばすぐに折れてしまいそう。
「腕を見せろ。」
先ほど平手打ちを受けた時、彼女の手首が赤くなっていたのには気がついていた。
治癒魔法はあまり得意な分野ではないが、怪我が悪化する前ならば問題なく治してやれるだろう。
渋るヒカルを半ば脅すようにして黙らせ腕を出させると、白い肌にはくっきりと赤い手形が残っていた。
わかっていたはずなのに、改めて目にしたら無性に腹立たしかった。
他の男の手垢を消すように、残された手形の上に自分の手を重ねた。