第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
レオナの手から寮生二人が解放されたのを見届けて、ヒカルは無言で浴場から出た。
いつまでも濡れた運動着のままでいたら風邪を引く。
昨夜洗ったヒカルの作業着はレオナの部屋のバルコニーに干させてもらっていたので、乾いたそれを取り込んで手早く着替えを済ませる。
「い…たたた……。もう、これ絶対に痣になるじゃん。」
容赦なく掴まれた手首が赤くなり、今もずきずき痛む。
助けたとはいえ、彼らを許したつもりはないので、寮内の掃除をどうにかして二人に押しつけられないかと算段をしていたところで、レオナの部屋の扉が開いた。
一瞬、あの二人だったらどうしようとビクついたが、現れたのはレオナだった。
不機嫌顔の頬は、浅黒い肌色のためわかりにくいが、ほんのり赤みを帯びている。
(あ、そういえば、殴ったんだった……。)
愛すべき推しの顔を殴ってしまった。
全国のレオナファンの皆様、ごめんなさい。
さっきは怒りのあまり気にしなかったけれど、今からでも土下座をした方がよいのではないか……と本気で思って腰を曲げかけたが、おもむろにベッドの前に立ったレオナがヒカルを呼んだ。
「……来い、座れ。」
「あ、はい。」
飼い犬のような気持ちで指示に従い、無駄に大きいベッドの端に腰を下ろした。
「腕を見せろ。」
「え……。」
「早くしろ、二度言わせるな。」
「あ、はい。」
どうせ抵抗したって意味はない。
痛めつけられた腕を差し出すと、レオナの眉がぎゅっと寄る。
言っておくが、制裁を受けた二人の方がよほど酷い怪我をしているはずだ。
「……。」
無言のまま、レオナの大きな手のひらがヒカルの手首を掴んだ。
いつかヒカルが色っぽいと褒め称えた手は、小鳥に触れるかのように優しくヒカルの手首を覆い、じんわりと温かな熱が伝わってくる。
体温より少し高めの熱は、不思議なことにヒカルの痛みを吸い取って、あっという間に消してしまう。
手のひらが離れると、ヒカルの手首からは痛みも赤みも消えていた。
ヒカルがレオナから受けた、初めての魔法だった。