第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
推しの顔を殴った。
少し前のヒカルならば、自分がそんな暴挙を起こしたと知れば地面に額を擦りつけて謝るが、今は違う。
この面倒くさい事態を一刻も早く終わらせたい。
だからヒカルは、開き直った。
頬を叩かれて驚くレオナに、こう言い放ってやった。
「その二人の言うとおりだよ。わたしが誘惑したの!」
「………なに?」
「わたしが誘惑したんだよ。ちょっと遊んでもらおうと思って。わかる? 二人は悪くないの。だからその手を離して。」
こんな嘘をレオナが信じるとは思っていない。
でも、一方が誘惑されたと証言して、一方が誘惑したと認めたら、それで終わりである。
嘘が真実となってしまえば、レオナが彼らを責める理由もない。
「……なぜ庇う? 自分を傷つけた連中を助けるとは、たいした慈悲の心だな。」
皮肉が込められた問い掛けを聞いて、今度こそヒカルは鼻で笑った。
「慈悲? そんなわけないでしょ。ぜーんぶ自分のためだよ。」
「こいつらを庇うことが、お前にどんな利益を呼ぶ。」
「利益を呼ぶんじゃなくて、助けなくちゃ不利益を被るの。」
「不利益だと?」
そうだ、不利益ばかり。
うっかり襲われたせいで未来ある学生二人が生命の危機に立たされ、過剰な報復を目にしてしまって寝覚めが悪い。
ここで大問題を起こしてしまえば、物語は修正不可能なほど軌道変更してしまうし、なにより……。
「レオナが退学になったらどうするのーーッ!」
魂の叫びが口から飛び出して、虚を突かれたレオナの耳がぴんと立った。
「レオナがいなくなった学園で、わたしはなにを楽しみに生きればいいの! そりゃ、そっちは王族の遊びかなんかかもしれないけどねぇ、わたしからしてみれば、レオナがいなくなった学園なんて、砂糖が入ってないケーキと同じなんだからーー!!!」
息継ぎなしで怒鳴ったせいで、ぜはぜは息切れがする。
呆然とレオナが見下ろしてくるが、言いたいことは全部言えたのでヒカルとしては満足だ。
「意味が、わからねぇ……。」
案の定、レオナからはクエスチョンマークが飛んだけれど、興奮したヒカルは鼻息荒くそっぽを向いた。
「とにかく! 今回の騒ぎの原因はわたしにあるの、それでおしまい!」
意味は伝わらずとも熱意は通じたのか、レオナの手から力が抜けた。