第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
レオナのユニーク魔法は、王者の咆哮。
カタカナ読みして“キングス・ロアー”は、対象を干上がらせて砂に変える強力な魔法。
水分が瞬く間に蒸発し、木々は枯れ、大地が割れる。
そんな魔法を人間相手に使ったら、あっという間にミイラの出来上がり。
「……なぜ止める。」
冷たく平坦な声で問われ、ヒカルは思った。
なぜ止めないと思ったのか、と。
「さすがにそれは、やりすぎでしょ?」
「やりすぎ? 馬鹿を言うな。お前、こいつらになにをされたか忘れたのか? それとも、なにをされそうになったのかわかんねぇほど、頭が軽いのか?」
どちらでもない。
忘れてなんかないし、彼らの意図を察せないほど馬鹿でもなかった。
だからといって、惨忍な振る舞いを見過ごせるほど、アホでもないのだ。
「結果的には無事だったし、罰は十分与えたと思うの。だから、もう――」
「十分? ハッ、これだから平和な草食動物は困る。こいつらは、この俺の命令に背いたんだ。使えねぇ獣には、相応の躾が必要なんだよ。……引っ込んでろ。」
いやいやいや、あなたも馬鹿ですか?
校内では私闘による魔法の使用は禁止でしょ。
ちょっとした便利魔法ならばともかく、レオナの魔法は強力すぎるがゆえに派手すぎる。
今は大会に向けて大事な時期のはずなのに、寮長であるレオナ自身が問題を起こしてどうする。
「あ、あのね……。」
「うるせぇ、これが俺のやり方だ!」
あ、面倒くさい。
レオナに対してそう思ったのは、これが初めてだ。
崇拝する推しなのに、盲目的に愛する推しなのに、レオナが面倒くさい。
レオナはヒーローの如く助けに来てくれたのに、こんな時に限ってお目付け役のラギーは来てくれないし、ユウもエースもデュースも救出に来てくれない。
「いい加減にしてッ!」
力いっぱい怒鳴ったあと、ヒカルは衝動的にレオナの顔を殴った。
美しいその顔にヒカルの平手が命中し、乾いた音が浴室に響く。