第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
どかり、と続けざまに蹴りが入ったあと、レオナがヒカルのもとへ歩いてくる。
「おい、大丈夫か?」
「ん……、平気。」
助け起こされたヒカルは疼く肩をさすりながら頷いたが、ピリッと走った痛みに顔を顰める。
「あ、いてて、唇切れた。」
床に倒れた際に唇を打ったらしく、切れた傷から血が流れた。
赤く鮮やかな血を見た途端、レオナの表情が変わった。
それまでだって十分怖い顔をしていたのに、眼光は鋭さを増し、剣呑な雰囲気に思わずヒカルが息を呑んだほど。
ヒカルを支えていた手が離れ、すっと立ち上がる。
「あ、ちょっと、どこに……。」
「目を瞑って待ってろ。すぐに終わらせる。」
不穏な空気を察してレオナを引き留めようとしたが、伸ばした手は大股に歩く彼に届かない。
レオナが向かった先は、未だ悶え苦しむ監視役二人のところ。
長く美しい脚が床を離れ、空を切る勢いで寮生たちを蹴り飛ばす。
「あぐぅ!」
「ぐえ……ッ」
一度だけでは飽き足らず、何度も何度も蹴りつけては寮生の身体が床を転がった。
良い職場に恵まれなかったヒカルだけど、それまでの人生は順風満帆で、誰かが暴力を受ける場に遭遇した経験などなかった。
演技ではない生の暴力を目の当たりにしたヒカルはしばしの間フリーズし、思考が完全に止まっていた。
しかし、ズタボロになった寮生の首をレオナが掴み、とある言葉を口にした時、ヒカルにかかっていた凍結が瞬時に解けた。
「――俺こそが飢え。俺こそが乾き。お前から明日を奪うもの……!」
大好きなレオナのセリフ。
大好きなレオナの詠唱。
それが聞けるなんて感涙ものだが、今は呑気に泣いている場合ではない。
その詠唱が意味するのは、あらゆるものを干上がらせ、砂へと変える恐ろしい魔法。
「ちょ、ちょっと待った!!」
慌てたヒカルはレオナに駆け寄り、恐怖に慄く寮生の首を絞めた腕に縋った。