第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
ヒカルの監視には、顔も名前も知らない二人の獣人がついた。
尖った耳と丸い耳をした二人の獣人生徒は、黙ってヒカルを見張っている。
その視線には、好意的なものは感じられなかった。
(なんか……、やりづらいな。)
ラギーが指摘したとおり、ヒカルは用務員の仕事である雑務を多くの生徒に手伝ってもらっているが、餌食にする生徒はちゃんと選んでいる。
本気の好意を向けてくる生徒はダメだ。
迂闊に関わると、拗らせた好意が膨らんで面倒な事態に巻き込まれる。
また、女性蔑視をする生徒は論外だ。
ナイトレイブンカレッジには様々な世界から生徒が集まってくるため、中には女性の立場が低い国からやってきた者もいる。
そういう連中は、女を奴隷か性の捌け口程度にしか考えておらず、男女平等を謳う日本からやってきたヒカルからすれば、ナメクジ以下の生き物だ。
そして最悪なことに、見張り役の二人はナメクジ以下の人種らしい。
直接なにかを言ってくるわけではないけれど、向けられてくる視線に「なんで俺たちが女のために時間を割かなくちゃいけないんだ」という不満がわかりやすく含まれていた。
現実世界でも、性格や根性がひん曲がった人間はいた。
彼らとの正しい接し方は、なるべく関与しないこと。
言葉を交わさず、頼らず、関心を持たなければ最低限の被害で済む。
そう思って見張りの二人を無視し、談話室と廊下を掃除し終え、今度はバスルームへと足を向けた。
昨夜お世話になった浴場は大勢の寮生が毎日利用するために広く、床や浴槽を磨くだけでも苦労しそうだ。
普段は寮生が集まって掃除するのだが、ヒカルにとってはいい暇潰しになるだろう。
直射日光に照らされながらグラウンドの草を刈る作業に比べたら、屋内の風呂掃除くらい楽な仕事。
浴場全体に水を撒き、濡れないように借りた運動着ズボンの裾を屈んで折ったところで、背後に気配を感じた。
「え、あ……ッ!」
ハッと振り向いた時には太い腕がヒカルのうなじを掴み、濡れた硬い床に全身を打ちつけられていた。