第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
ヒカルがサバナクロー寮に連行されたのも、うっかり人質にされてしまったのも、成り行きとして仕方がない。
でも、あろうことかレオナの部屋でレオナと同じ空気を吸い、なおかつ寝所を共にするなど……全然仕方がなくない!
(だってわたし、絶対に汗臭いもんッ!)
用務員の仕事は肉体労働。
加えてラギーと追いかけっこまでしてしまったヒカルの身体は汚れていて、嗅覚が優れた獣人たちなら、この体臭がわかってしまう。
とっておきの入浴剤を入れたお風呂に浸かって、お高い美容液を全身に塗り込み、さらにはフルメイクをした上でレオナの寝所に侍りたい……とまでのワガママは言わないけれど、せめて、せめてシャワーをくらいは浴びさせてくれ。
男という生き物は肝心なところで気が利かず、布団を敷いてサヨナラだ。
人を脅しの材料にするのなら、最低限の生活くらい確保させてほしい。
とにかく、ヒカルは大好きなレオナに「こいつ、臭ぇな」と思われたくないのだ。
そのために部屋を抜け出してきたのに、まさかレオナが追ってきてしまうなんて。
追ってきてもらえたシチュエーションには、吐き気がするほど萌えるけれど。
「……風呂が、なんだって?」
「よ、汚れてるの、わたし! 絶対に臭いもん、それ以上は近寄らないで!」
レオナの部屋では、彼からなるべく距離を取ろうと部屋の隅に布団を敷いて対策をしたが、この距離はさすがにマズイ。
支柱に抱きつきながら片手を突き出して近寄るなアピールをしているものの、怪訝そうに眉根を寄せたレオナはなにを思ったのか、その長い足で歩みを進める。
「ちょ、わたしの話を聞いてた? 近寄っちゃダメって――ひッ」
至近距離に迫ったレオナが腰を折り、端整な顔をヒカルに寄せる。
筋の通った鼻をすんとひくつかせ、ぽつりと呟く。
「……別に、変な匂いはしねぇ。」
「ぴ…ぇ……ッ!」
匂いを嗅がれた。
推しに、体臭を嗅がれた。
胸の奥からふつふつと熱いなにかが湧き上がってきて、今にも噴火しそう。
いや、無理だ。
抑えられそうにない。
煮え滾るマグマはすぐさま溢れ、ヒカルは二度目の爆発をした。
「ああ! もう! 好きーーーッ!!」
耳もとで絶叫されたレオナはびくりと驚いて後ずさり、それから美しい緑の瞳を瞬かせた。
「は……?」